特集

いたばしスイーツ 「ルポン・デザミ」Le Pont Des Amis

「ぶらり、いたばし」最初の食の特集は、みんな大好きスイーツのご紹介から始まります。 気鋭の人気店からクラシックな名店まで、小さなしあわせを生み出してきたパティシエにお話しをうかがいました。

ルポン・デザミLe Pont Des Amis

倉嶌 克彦(くらしま・かつひこ)さん



■ パティシエ誕生のルーツ

僕の家は新潟の上越市で和菓子店を営んでいましたが、三代目だった父は洋菓子職人を志して東京で数年間修行した後、戻って家を継ぎました。和菓子は祖父に教わりながら和・洋菓子店をやり始めたんです。

洋菓子が珍しかった初めの頃こそ良かったらしいですが、土地柄でしょうか、やはり和菓子の需要が大きくなっていき、店を閉める間際には洋菓子はほとんど売れなくなっていたそうです。父に直接言われたことはないんですが、自分が憧れて目指した洋菓子の世界で息子に成功してもらいたいという思いは持っていたようですね。

でも、僕も父のためにお菓子の道に入ったわけじゃない。自分のため、自分の家族のために自分のお菓子を表現したい。だから新潟には帰らずフランスでの修行ののち、東京で勝負することにしたんです。


■ 「ルポン・デザミ」の現在

このお店は5年目になります。そんなに大規模なものではないですが、例年10月に周年記念セールを行い、この日だけの限定メニューも作ります。

前にいたお店は白金台にあったので、あまり生活臭がないというか、おしゃれなイメージを売っているところがあったんですが、板橋に来てからは住宅街の中でファミリー層に向けて作っているので、商品のお菓子も変わってきていますね。


ただ、その時の流行(はやり)には流されたくないと思っていて、折角の自分の店ですから、自分で判断して、自分で決められる。本当に自分が作りたいものを作ってお客様に評価されたいと考えています。

お菓子って、自分の人生の反映なんですよね。

20代で周りに習いながらお菓子を作っていた時代、15年前シェフになりたての頃に作っていたもの、お店を持ってから作っているもの、それぞれ全然違います。

感性も変化していれば自分の味覚も変わっているんですよね。技術的な進歩も背景にして、以前にいたお店の頃と同じものは一つもないんです。


フルーツとチョコレート、フルーツと他の何か、っていう組み合わせが好きなんですね。美味しさって、もちろんお菓子自体の美味しさも必然ですけど、視覚から入る部分も大きいと思うんですよね。フルーツを飾ることで、口に入る前から美味しさを伝えたいと思っています。

十年ぐらい前までは、作るお菓子をキレイって思われたかったんですけど、今はそれに加えて美味しそうって感じてもらいたいと思うようになってきました。

例えば、ツヤツヤ、ピカピカのケーキって、見た目があまりキレイすぎるとかえって食べたい気持ちにつながらない部分があると思うんですが、そこにフルーツやクリームを飾ることで「美味しそう」に引き寄せることができるように思います。


■ 人生の「ショーケース」

5年後、10年後の自分が何に興味を持って、どんなお菓子を作っているかは今は分からないですね。

お菓子に限らず、料理を作ることって、人格が現れると思うんですよね。お菓子作りは自己表現なので、お店のショーケースは大げさに言えば今の自分のショーケース、自分の人生のショーケースですよね。だから、他のお店に勉強のために行ってみる、食べてみるってことはだんだんと減ってきました。レシピや教科書もだんだん見なくなりましたし、自分の作るもの、自分のお菓子で支持されなければいけないんだなと思っています。

妻や子どもたちからの意見、フィードバックは凄く重要なものですよ。もちろんスタッフにも試食してもらいますが、プロの感じ方と一般人や一消費者の感じ方、とらえ方は全然違う。プロの視点はやはりどこか専門的で、マニアックなものの見方になってしまいますが、素人のニュートラルな意見ってとても貴重なんです。

最終的にはそれらを自分でどうお菓子に落とし込むか、考える貴重な判断材料になっていますね。


■ スイーツとの、これから

スイーツって、お客さんに喜んでもらうために自分にできる手段、自己表現の手段ですね。いくつになっても、何年たっても、食べたお客さんが「美味しい」って言ってくれた時の嬉しさは変わりません。

お金をいただいてプロとしてお菓子を作っていて、さらに今はスタッフも抱えているので、経営を安定させて継続させていくことが一番大切なことだと思っています。

おかげさまで少しずつリピーターが増えてきている気はします。より長くお付き合いいただくにはもっともっと勉強を続けて、スタッフと共にさらに成長していきたいですね。

自分が20代の頃は四六時中お菓子のことを考えて、休みもなくお菓子作りに没頭したものでした。それは今の自分の基礎になっているし、間違いじゃなかったと思っています。

ですが、今の若いスタッフたちには、お菓子以外のものもたくさん見聞きして、体験して、人生を豊かにして欲しい。

それができるように、うちはどんなに忙しくても必ず週休二日を貫いています。人としての器が大きければ、それぞれが作るお菓子にも必ずあらわれるものだと思っているので。


僕もこの業界に入ってもう26年になりますけど、お菓子作りにはそれなりの経験値があります。でも、お菓子を作ること自体が好きなんで、スイーツの中でもこれが好き、これが得意ってものは、特にないんですよ。

もちろん仕事は大変ですし、眠いし。だけどやりたくなっちゃうんですよね。

きっとこの先もこの仕事で生きていけるだろうなって思いますね。


文・写真 = 小笠原 努
Information

ルボン・デザミ

次回の特集は

「ぶらり、いたばし」次回の食の特集は 「いたばし世界グルメ旅行(仮題)」と題して、板橋区内で楽しめる本格的な各国料理の数々を大特集します!お楽しみに。