特集

いたばしスイーツ「クリオロ本店」CRIOLLO

「ぶらり、いたばし」最初の食の特集は、みんな大好きスイーツのご紹介から始まります。 気鋭の人気店からクラシックな名店まで、小さなしあわせを生み出してきたパティシエにお話しをうかがいました。

クリオロ本店CRIOLLO

サントス・アントワーヌさん



■ クリオロのオープンまで

来日して4年間勤めた会社では、チョコレートの技術指導と宣伝のため忙しく全国を飛び回っていました。当時は今ほど日本語も得意ではなく、毎日初めて会うお客さんを相手にストレスが溜まり、くたびれ切って、もう日本で頑張るのは無理かなと、帰国を決意したんです。まずはゆっくり世界を旅して心と体を休めて、フランスに戻って結婚して、オーストラリアに自分の店をオープンしよう、ってストーリーだったんです。でも、飛行機のチケットを買いに行く途中、バイクの事故に遭ったんです。

2か月は寝たきりの大事故だったけれど、仕事を離れているうちにずいぶん精神的に楽になってきたんですね。せっかく日本語の勉強もしたし仕事上の知り合いもたくさんできたんだから、このまま日本にとどまって仕事をするのもいいかなと思い始めたんです。しばらくはコンサルタントの仕事でやはり全国に出向いていましたが、お客様にお越しいただけるような場所の方が良いと考え、小竹向原に小さなお菓子の学校を開きました。

いつか絶対お店をやりたいと思っていたわたしの奥さんの希望もあり、その後、一階が店舗で上に学校と事務所も併設できるビルを借りました。

彼女はクレイジーなほどのエネルギーがあって、まだ銀行の融資が下りていないのに工事を始めちゃったり、銀座のデパートへの出店や上野や中目黒にお店を出したり、本当にスピーディーなんです。

その頃はまだ珍しかったインターネット販売も、ホームページ作成を他人に頼んだらもの凄くお金がかかるからと「一週間で作れるホームページ」みたいな本を買ってきて、本当に一週間で作っちゃった。今ではネットで全国からたくさんの注文をいただいています。

ワインの輸入会社に勤めていた奥さんはもともと食べるのが大好きだったんですが、ワインを売るためにたくさんのレストランを訪れているうちにどんどん味覚が磨かれていったんです。

わたしが今作っているケーキの味に関しても彼女の影響がとても大きいんですよ。



■ 奥さまからのアドバイス

来日直後、働いていた会社は10店舗を持っていて、そこには私のショーケースもありました。でも毎日私のケーキだけ売れ残っていた。お菓子作りを教えていたのに、めちゃくちゃ恥ずかしかった。

フランスのお菓子と日本の洋菓子は全然違います。当時はフランス式のままやっていたけど、スポンジもクリームも違う。そして、フランスでは見た目がきれいなお菓子が売れる、日本では美味しそうなものが売れる。それを一つにできるのがベストなんですけど、もしどちらか、というなら「美味しそう」な方向にしなければ日本では受け入れられない。

奥さんのアドバイスは、食感や味、見た目、さらに商品のパッケージや店舗の演出などすべて、多岐に渡りました。それからわたしのお菓子はガラリと変わって、人気も出始めたんですね。

日本にフィットするように自分のお菓子作りを変えることに抵抗感はなかったですね。わたしは凄く柔らかい人なんです。実際に食べておいしいなら、そっちに行けばいい。時間をかけて作り上げたものだって、もっと美味しいものがあったらそっちを選ぶのが当然でしょう?


■ レシピブックより大切なもの

この21年間で、レシピが変わっていない商品は2つしかありません。あとはすべて毎年毎年、調整を繰り返してきています。

学校で教えていた頃は毎月2個ずつ新しいお菓子を作っていました。そうすれば、生徒たちは自分でお店を開いてもやっていけるでしょう。そのレシピは全部で500種類になりました。でも今は全然使いません。本も2冊作ったけど、そこに載っているレシピももう使わない。その時代時代に合わせて相当な調整をしないと商品として成り立たないんです。ずっと勉強して変化し続けないと時計は止まってしまいます。

コロナ禍の今でも毎週毎週いろんなお菓子屋さんに行ってみています。たまにウチより美味しいお菓子に出会うのはショックですが、それは悪いショックじゃないですよ。「もっと美味しいものを」と次の日から新たなお菓子にチャレンジする。

頭が柔らかくないと、次々に挑戦し続けることはできませんから。


でもその前に、いまのお菓子をもっと安定させて、誰が作ってもクオリティをキープできるものにしていきたい。ブレがなく、いつも同じクオリティを維持していないとお客さんの期待に背き、やがてお客さんは離れて行ってしまいます。だから新しいものは大切だけど、常に同じ味のお菓子を提供できることはもっと大事だと思います。

レシピはあっても「ちょっと温度間違えた」「ちょっとタイミングがずれた」「ちょっと体調が悪い」、するとクリームの硬さに影響が出るし、食感が変わる。

普通のパティシエは「新しいレシピができた、美味しい」「よし、商品にしよう、売り出そう」、でもそれはとても危険だと思います。わたしのやり方は、あくまでもそこが出発点。

予めもっともっと高いレベルに引き上げておかないと、いろんな人が関わって、様々な要因があって、少しづつズレが生じる。その結果かわいそうなのはお客さん。だから最初から可能な限りレベルを高めておく、

今は自分一人でお菓子を作っているわけじゃないので、「ああ、美味しいのができた」って満足してしまったらダメなんです。
■ クリオロの神様

スイーツって、生活の一部ですね。美味しいものを食べると、しあわせ。そのあと、ちょっと甘いものを食べると、もっとしあわせ。パンがあってワインがあって、という普通の生活にいつもスイーツがあって欲しい。

「お客様は神様」と言うじゃないですか。もちろんその通りでお客様はとても大切。ただ同じくらいスタッフのことも大切に思っています。

だって、作っている人の愛がないと、接客やお店の雰囲気にも影響が出る。スタッフが仲良く、楽しく仕事ができれば良い商品が生まれる。

お客さんを幸せにするためには、まずスタッフが幸せじゃないとだめなんです。ちょっとした夢を売っているので、お客さんが幸せになってくれないと仕事をする意味がないじゃないですか。

お店に関わるスタッフみんながもっともっとハッピーになることが、私の一番の夢なんです。とても難しい目標でなかなか完璧にはならないけど、それができたら私は満足ですね。


■ Respect Your Wife.

それで最後にね、どうしても一つだけ言いたいんです。

日本は本当に素晴らしい国で、みんな親切だし、ルールを守るし、世界でもベストカントリーだと思っていますが、昔から、自分の奥さんのことを馬鹿にしたような言い方をするでしょう?「ウチの妻はつまらないヤツで」とか「気が利かないヤツでしてね」みたいな。わたしはあれが大キライなんです。

サムライの頃からの伝統なのかもしれませんが、この世界は女性がいるから動いているんですよ。みんなそれを忘れているんです。奥さんて本当に、神さま、カミさんっていうだけあって、神様ですよ。わたしは奥さんがいなかったら本当にちっぽけな存在です。彼女がいなかったら今の自分はここに居ませんよ。
文・写真 = 小笠原 努
Information

CRIOLLO(クリオロ)本店

向原3-9-2
TEL:03-3958-7058

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次回の特集は

「ぶらり、いたばし」次回の食の特集は 「いたばし世界グルメ旅行(仮題)」と題して、板橋区内で楽しめる本格的な各国料理の数々を大特集します!お楽しみに。