- 個性あふれる名店がひしめく、いたばしの珈琲店。
そこには美味しく香り豊かなコーヒーとともに街と人に育まれた独自の文化と個性があります。
板橋区を横断する「都営三田線」と「東武東上線」それぞれに、果たして沿線文化とも呼ぶべきカラーは見つかるのでしょうか?それはどんな色なのでしょうか?
そんなことを考えながらいたばしの珈琲店を訪ねるのもきっと興味深いことでしょう。
一杯のコーヒーを巡る《都営三田線》の小さな旅、始まります。
特集
コーヒーの店特集
コーヒーの店特集
《都営三田線編》 Coffee Shop Special
Toei Mita Line Edition
個性あふれる名店がひしめく、いたばしの珈琲店。一杯のコーヒーを巡る《都営三田線》の小さな旅、始まります。
ベルニーニ(志村三丁目)Bernini (Shimura 3-chome)
- かかりつけのコーヒー屋、おかかえコーヒー店でありたい。
《父・岩崎俊雄さん談》レストランを経て喫茶の名店に勤めたのち、当時はまだ小さな会社だったドトールコーヒーに入社しました。30歳の時です。創業時のメンバーとしてメニュー開発、店舗開発、マニュアル作り、社員教育など現在のフランチャイズの基礎にはすべて関わりました。人気メニューの「ミラノサンドA」も試作を繰り返して私が商品開発したんですよ。その後、ドトールが経営拡大のために設立した「ドトール喫茶経営学院」の学院長を務めることになりましてね。ドトールやカフェコロラドの店長など約300名を育ててきました。
- 海外の農園で栽培を見学したり、ヨーロッパのカフェを視察したり、社長命令で色んな勉強もさせてもらいましたが、フランスやドイツ、その他いろいろ行った中でもイタリアのバールの雰囲気、楽しさは大好きでね。旧来の日本の喫茶店の、暗くて、気難しいマスターがいて、静かにしてなきゃいけなくて、という常識を払拭したいと思ったんですよ。イタリアの街角にある明るく気軽なカフェ、というコンセプトはベルニーニにも生きているわけです。
開店は1999年ですから24年前になりますか。最初の頃は本当に大変だったけど、不思議と焦りはなかった。ずっと人に教えてきたことを今度は自分がやれば良いわけですから。それを自ら実践してここまで来られたのは嬉しかったですね。教えてきたことは間違ってなかったって。
- 《息子・岩崎健一さん談》商社務めで多忙な日々を送っていましたが、6年前に決心して店に入りました。コーヒーは好きでしたし、いずれは店を継ぎたいと思っていたんです。それ以来、本格的に勉強して今は焙煎を任されていますが、機械の操作方法以外、具体的なコーヒーの味づくり、秘伝のレシピ的なものは何も教わってないんです。「ベルニーニらしいコーヒーを」というテーマ以外は。
今も父との日々の会話の中で、ベルニーニらしさとは?ベルニーニのコーヒーとは?と考え続ける毎日ですね。
- ベルニーニらしいコーヒーとは何なのか?
ひと言では言えませんが、飲みやすく、飲み飽きないコーヒー、それはつまり体に優しいコーヒーで、かつ豆を買って家庭で淹れて、家で飲んでも美味しいコーヒーということが一つの大きなコンセプトですね。職人でなくても手軽に美味しく淹れられる、そうでなければ家庭では飲めなくなってしまいます。
だから店でも特別な器具で特別な淹れ方をしているわけではないんです。普通のペーパードリップ、普通のドリッパー、一般的ではないものは採用しないしどなたでも淹れ方をご覧いただけるようにカウンターはオープンに、丸見えにしています。
- 喫茶店は一期一会で、最初に喜んでいただけないとニ度目、三度目はない。そのために大切なのはまず「良いコーヒー」。高品質な豆、適切な焙煎、鮮度、この三つが何より大切で、それは美味いかどうか以前のものなんです。常に「良いコーヒー」を念頭に仕事をしていて、それがベルニーニのクオリティを保っている。
だから、店にはプロがいっぱい来ます。そこで質問があれば何でも答えますし隠し事はしない。隠すほどのこともないですし。どなたにでも、なんでも聞いてくださいって言ってるんです。コーヒーのことならきっと、他人より詳しいと思いますから。
日々真摯に取り組んで、やがて区民の誇りにつながるような店になりたいと思っています。板橋って地味だけと美味いコーヒー屋があるんだよと、他に自慢したくなるような。
自家焙煎コーヒー角打ち VIVA COFFEE(高島平)VIVA COFFEE ROASTERY (Takashimadaira)
- コーヒーをめぐる店主の旅路が拓く、地域とコーヒーの可能性
中川亮太さん(通称ビバさん)
- こどものころ父親がミルでコーヒーを挽くのを見ていたら、とても楽しそうだったのでよく手伝っていました。小さい身体でコーヒーを挽くには、ミルを太ももで挟んで一生懸命ハンドルを回すのですが、そうすると挽きたての香りが直接鼻に上がってくるのです。その香りでコーヒーのことがどんどん好きになっていきました。中学生・高校生になると本や映画に登場するコーヒーにも憧れやカッコよさを感じ、大学ではコーヒーのことを勉強できるように、食品のことを学べる学部に進学しました。
しかし、入学してからようやくコーヒーを飲んでみたところ、「な、な、なんじゃこりゃぁ?」と(笑)。ちっともおいしく感じられなくて、なんなら体調も悪くなってしまいました。
憧れていたコーヒーが自分には向いていなかったという現実を突きつけられ大変落ち込みました。でも下ばかり向いていられなかったので、大学ではコーヒーを諦めて、紅茶や牛乳の研究することにしました。
- その後大学を卒業し、神保町にある出版社でデザイン関係を仕事をしていました。神保町には喫茶店が多くあり、さまざまな喫茶店での打ち合わせがありましたが、コーヒーが飲めない私は「ホットミルク」ばかりを注文していました。しかしとあるお店のホットミルクはほんのりコーヒーの香りを感じたのです。お店の方に確認したところ、コーヒー自慢の店だったため、ホットミルクにも数滴のコーヒーを隠し味的に入れていたそうです。それがとてもおいしく、とても感動しました。私にとって究極のカフェオレだったんです。それからはその店に行くたび、ホットミルクに入れるコーヒーを少しずつ濃くしてもらい、そのうちミルク無しでもコーヒーが飲めるようになりました。
その体験により、ずっと飲めないと思っていたコーヒーの扉が開いたのです。そうしたらコーヒーへの思いが堰を切ったように溢れてしまい、コーヒーを飲みまくる日々になりました。色々なコーヒーを飲むようになって、自分の身体に合うコーヒーと合わないコーヒーがあって、それはどうやらおいしさにも関係していることに気がつきました。
- その後コーヒーに関係した仕事がしたいと思い、大手コーヒー会社に転職し店舗のデザインやマーケティングの仕事をしながら、プライベートでは有休を取ってコーヒー産地をめぐるようになりました。グアテマラ、エルサルバドル、パナマ、ハワイ、タイなど、、、、。すると少しづつコーヒーを取り巻く環境や経済など、コーヒーの国際的な問題や農園の事情や背景が見えてきました。その中で、自分にできることは何だろうと考えるようになり、その答えの一つとして、きちんと育てられたコーヒーの素晴らしさを伝え、その価値を高め共有し、農家に還元できることで、この先もずっと美味しいコーヒーを楽しむことができる「サステイナブルなコーヒー」を広めるお手伝いができたらと考えるようになりました。そんなタイミングで、コーヒーを「メディア」と捉え今までにない発想でコーヒーに取り組みたいという広告代理店と出会い「コーヒークリエイター」としてコーヒーに携わることになりました。
コーヒーは、身近で日常的な存在であるため、しばしばコミュニケーションツールとしても利用されますが、その多様性やハードルの低さで、人と人、人とモノ、人と企業、人と社会などさまざまなコミュニケーションをつなぐ能力も発揮します。
VIVA COFFEEは、2021年4月、緊急事態宣言の最中にオープンしました。豆販売がメインですが、カウンターやちょっとしたスペースでカフェとしても楽しんでいただけます。「自家焙煎コーヒー角打ち」と称しているのもそのためです。「角打ち(かくうち)」とは簡単に説明してしまうと、酒屋で立ち飲みできるスペースのことを指していますが、酒でなく、コーヒーを角打ち感覚で身近に楽しめたら面白いだろうなということで「コーヒー角打ち」と造語しました。
- よくお客さまに「家でお店と同じ味を再現するのが難しい」と言われるので、家でも店と同じ味を再現できるよう「浸漬式(しんししき)」という誰でも簡単においしくコーヒーを淹れられる方法で抽出しています。適宜解説もしますので、お気軽にお声がけください。ぜひご家庭でも簡単においしくコーヒーを楽しんでいただきたいと思ってます。
コーヒー豆は常に鮮度を維持できる10種類ほどを、その豆の良さを最大限引き出せるローストで取り揃えています。贅沢ではあるのですが、大きい焙煎機で少量の豆を焙煎することで、芯までふっくらおいしいコーヒー豆になります。
さらに、同じコーヒーでも器によって味が変わります。それは受け手(飲む人)がキャッチできるコーヒーの情報量が変わるからなんです。コーヒーの優しい香りをなるべくたくさんキャッチするには口の広いワイングラスが最適です。さらに、コーヒーは温かい飲み物なので耐熱性のワイングラスである必要があり、また形状もボルドータイプでは湯気が強すぎ、ブルゴーニュタイプでは飲みにくいなど試行錯誤した結果「モンラッシュタイプ」に落ち着きました。嗅覚から味わう要素はとても大きいのです。
- お店の入り口ドアには、コーヒー豆形をした木の取っ手を付けました。まるで焙煎でコーヒー豆の色が変化するように、豆形の取っ手に人の手が触れて歳月とともにどんどん色濃く変化するのが楽しみです。
ヨーロッパのコーヒーサロンには芸術家、作家、音楽家などさまざまな人たちが集まってきて、やがて文化が生まれ、発展しました。地元高島平でお店を開いたのも、自然にさまざまな人が集まって、何かが生まれるような、ゆっくりと地域に馴染んでいく場所を作りたいと思ったからなんです。通っているうちにだんだんコーヒーの面白さ、奥深さに気づいてもらえたらいいですね。
COFFEE Braid ~ つむぐ ~(志村坂上)COFFEE Braid ~ Tsumugu ~ (Shimurasakaue)
- 一杯のコーヒーがいろんな想いを紡いでゆく、そんなお店になりたい。
岡田 雄一さん
- もともと紅茶派だったんですよ。コーヒーっていうと苦くて重くて、胃が痛くなって、って印象があったんですね。それがあるとき仕事帰りに訪れた神保町でたまたま入ったカフェで衝撃を受けたんです。えっ、これもコーヒーなの?って。今やシングルオリジンのスペシャルティコーヒーを取り扱う大変有名なロースターさんだったんですが、それが「浅煎りコーヒー」との出会いだったんです。
それをきっかけに、休日に3、4件有名なカフェ巡りをするようになりました。いろいろな浅煎りのロースターを巡り、バリスタさんにレシピを教えてもらったり淹れるところを見せてもらったりしては家で試していました。実は都営三田線って名店と呼ばれるカフェがたくさん存在しているんですよ。自分でお店をやろうと決めてからは焙煎のセミナーに通ったり、ロースターさんがやっているカッピングイベントに通ってさらに味の勉強を重ねました。
- いまお店では浅煎りを中心に深煎りまで厳選したロースターの豆を、期間限定のものも含めて常時10種類ほどのコーヒー豆からお選びいただき、一杯ずつ丁寧にハンドドリップで抽出しています。生産地、農園が違えばコーヒーの味も変わるので、シングルオリジンの豆が中心です。同じ原産国でも農園や精製方法、ロースターが違う豆を飲み比べできる「飲み比べセット」もあります。ブレンドはロースターさんごとのブレンドを3種類ほどおいています。
浅煎りには酸っぱいというマイナスイメージがあったり、そもそもコーヒーは苦くて苦手という方も多いそんな方にも爽やかでフルーティ、後から甘みも感じられる浅煎りのスペシャルティコーヒーの体験をしてもらいたいと思っています。店頭では豆の販売もしていますのでお好みなど気軽にご相談ください。
- おかげさまで妻の手作りのパウンドケーキも人気商品になっています。定番ケーキと旬のフルーツを使った限定ケーキなどだいたい5種から6種を揃えていますが香料などは一切使わず、自然の甘さを活かしています。
まず食べたいケーキをお選びいただいて、それに合う豆のコーヒーのペアリング提案もできますよ。妻はずっとぼくのコーヒーの味見をしていますから、パウンドケーキとのマリアージュの精度が高くなってきましたね。
- 最近、人間関係が希薄になったとよく言われますが、皆さんが昔でいう近所づきあいが本当に嫌なのかというとそうではないと思うんです。自分自身20年近く小豆沢に住んで、その間にマンションが増えファミリー層が増えてきた。長く地元に暮らす方と新しく住民になった世代を繋ぐ場所を作りたいと思ったんですね。
- そのため、カウンター、テーブル、椅子には無垢の檜を使って木の温もりと明るさを作っているタンノイのスピーカーでBGMの響きにもこだわっているんです。
ベビーカーやマタニティの方も入りやすいように通路幅を広くしたぶん、カウンター内に2人いるときはすれ違うのが大変なんですが、お子さま連れのお母さんたちが一杯のコーヒーでひと時くつろいでいるのを見ると嬉しいですね。
- 朗読会やワークショップなどに場所を提供したり、有名なロースターやバリスタさんを招いてコーヒーの入れ方をレクチャーしたり、ワークショップに参加した地域の方が小学校の課外活動に取り入れてくれたりもしました。
いまはお散歩の途中にひと休みの年寄りからお買い物や家事の合間にちょっとだけ自分の時間を持ちたい若いお母さん方まで、様々な方に来ていただいています。地域のサロンとしての活動は少しづつ拡がってきていますね。
- 文・写真=小笠原 努
- ※記事でご紹介しているメニューや料金などは取材時のものです。詳細は各店のホームページ等でご確認ください。
コーヒーの店特集《東武東上線編》は
次回の特集は
コーヒーの店特集《都営三田線編》、いかがでしたでしょうか。
オーセンティックな伝統と先進のチャレンジ、その双方が印象的な都営三田線のコーヒーの旅でした。
まだまだ紹介しきれない素晴らしいお店がせめぎ合う、いたばしのコーヒーのお店。
次回のコーヒー特集をお楽しみに。